ニュースリリース
2024/06/18
超ハイテン対応PVD新膜、「低温TiC-X」を開発
- 過酷なプレス成型条件において金型寿命を向上 -
トーヨーエイテック株式会社(本社:広島市南区、社長:早野祐一)は、金型用の新しいPVD膜「低温TiC-X」を開発し、本格的な販売を開始しました。低温TiC-Xはプレス金型を中心に広く適用されている同社の低温TiCの膜構造を最適化することで、超ハイテン材をはじめする高負荷のプレス条件下の使用に耐える金型寿命向上を図りました。
自動車業界では安全と環境への配慮から、高強度・高剛性化と軽量化とを両立する材料の使用が増えており、その一つとして高張力鋼板の採用が拡大しています。高張力鋼板は通常の鋼板よりも強度が高いことからプレス成型時には金型に高い加工負荷が掛かることに加え、鋼鈑の硬度も高いため、高い面圧が掛かりながら金型表面を硬い鋼板が摺動します。高張力鋼板が絶えず高強度化が進む中、安定したプレス量産加工を実現するために、このような過酷なプレス成形条件に耐えるコーティングの需要が高まっています。
低温TiC-Xは、同社製のアークイオンプレーティング式PVD炉(TF-778N)を利用して開発した、耐破壊性と耐摩耗性に優れたTiC(チタンカーバイド)系の膜です。PVD膜はマイナスの電圧を印加した製品に対し、プラズマ中でイオン化した原料ガスを電気的に引き込んで皮膜を形成させるため、圧縮残留応力を生じ、厚膜化が難しい課題があります。低温TiC-Xの開発にあたり、膜の構造を見直し、最適化することにより、従来の低温TiCが持つ優れた耐摩耗性を活かしながら、約2倍の膜厚を実現することで高強度化に成功しました。
[低温TiC-Xの特長]
1.5GPa超ハイテン材を用いたプレス加工に対する長寿命
低温TiC-Xは被加工材に1.5GPa材を用い、最大面圧900Mpaの高負荷の加工条件で評価した結果、32万ショットに相当する連続プレス加工において破壊(クラックや剥離)が無く、さらに耐摩耗性においてはコーティングの摩耗深さ1μmあたりのショット数を換算すると56万ショットとなり、いずれのライフアウト形態に対しても十分な寿命性能を持つことを確認しています。※
低温TiC-Xは最新の1.5GPa材を用い、量産を想定した高負荷プレス加工で性能を検証していることから、プレス技術者の理解も得やすく、発売開始と同時に高張力鋼板用プレス金型や厚板プレス金型へ試験的に採用されており、着実に実績を積み重ねています。
※プレス量産を想定した寿命性能の検証
コーティングの開発において、一般的には膜硬度等の物性を確認した後、摩擦摩耗試験などの基礎評価に基づいて性能を検証します。しかしながら、摩擦摩耗試験などのテスト条件と実際のプレス量産の加工条件は大きく異なるため、実用上、十分な性能が発揮できない場合があります。そこで低温TiC-Xの開発ではお客様の求めるプレス量産加工に対する寿命性能を直接検証するため、冷間プレス用高張力鋼板で最も強度の高い1.5GPa材を使用したプレス連続加工による耐久性評価を実施しました。また、この評価に用いた金型はプレス量産加工の高面圧を再現するためCAE解析に基づいて金型設計を行うと共に、プレス加工中に金型に高面圧負荷を安定してかけ続ける工法を独自に開発することで、加速試験を実現しました。また、寿命評価ではライフアウト形態と同様のコーティングの破壊と摩耗を評価することで量産プレス加工を想定した寿命性能を検証しました。
トーヨーエイテックは、1968年に日本で初めてCVD(化学的蒸着法)コーティングを導入したメーカーであり、現在ではCVDに加えてPVDや超大型のPPD(Pulse Plasma Diffusion(窒化の一種))設備を有する総合コーティングメーカーです。PVDコーティングは市場が拡大していますが、各社ともに新商品や戦略商品の投入等で競争が激化しています。同社では2014年にPVD炉(TF-778N)を自社で開発し、低温TiCの商品力アップに加え、新商品の開発に取り組んできました。今回の低温TiC-Xはその設備を使って開発した戦略商品であり、今後も市場の変化に対応し、お客様のニーズに沿った魅力的な商品を開発し、商品力のさらなる強化を図っていく予定です。